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福岡地方裁判所 昭和47年(む)1465号 決定 1972年11月20日

被疑者○○○に対する賭博被疑事件について、福岡区検察庁検察官が昭和四七年一一月一六日にした刑事訴訟法三九条三項の処分に対し被疑者の弁護人となろうとする者小島肇から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

福岡区検察庁検察官事務取扱検事大本正一が昭和四七年一一月一六日付でしした別紙記載の接見等に関する指定はこれを取り消す。

理由

一、本件申立の趣旨、理由は、準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

(一)  当裁判所の事実調の結果によれば、

(1)  被疑者は賭博被疑事件について昭和四七年一一月一四日逮捕され、引き続き同月一六日博多水上警察署代用監獄に勾留され、かつ同日刑訴法八一条により同法三九条一項に規定する者以外の者との接見等を公訴提起に至るまで禁止されたこと、

(2)  福岡区検察庁検察官大本正一は被疑者の在監する代用監獄の長に対し右被疑事件について同月一六日付で別紙のような接見等に関する指定書(以下一般的指定書という。)を発したこと、

(3)  申立人は弁護士であるが、被疑者から同月一六日電話で弁護依頼を受けたので、同人の弁護人になろうとして同月一七日博多水上警察署に赴き、被疑者との接見を求めたところ、具体的指定書を持参していないことを理由に接見を拒否されたこと、

(4)  そこで、申立人はその場で福岡区検察庁検察官大本正一係の検察事務官に対し検察官に右指定の撤回申入伝達方を依頼したところ、同検察事務官から右検察官は弁護士が検察庁に出向いて具体的指定書の交付を受けない限り接見を認めない意向である旨の回答を受けたことを認めることができる。

(二)  検察官は、右一般的指定書は前示接見禁止裁判の実効を確保し、接見の過誤をなくす目的で発せられた通知文書にすぎず、処分性をもたないと主張するけれども、右一般的指定書が発せられると、具体的指定書を持参しない限り被疑者と弁護人および弁護人となろうとする者(以下単に弁護人らという。)との接見交通が実際上一般的に禁止された状態が作出されることは当裁判所に顕著な事実であるばかりか、前認定のとおりであるから、被疑者および弁護人らは憲法三四条および刑訴法三九条一項で保障された接見交通権を侵害されたものとして右指定処分に対して刑訴法四三〇条の準抗告申立をする利益を有するし、また右指定は、(イ)指定権を有する捜査官によつてなされ、(ロ)外部的に認識されうる表象を具えているばかりか、当該行政庁の外部に表示され、(ハ)捜査官が刑訴法三九条三項に依拠して発したもので、(ニ)他に適当な不服申立方法がないのであるから、右準抗告の対象適格性をも有するといわなければならない。

(三)  ところで、刑訴法三九条一、三項によれば、捜査官は、被疑者の身柄を利用した現実の捜査をする必要があり、かつ被疑者側の防禦の準備をする権利を不当に制限するおそれがない場合に、接見の日時等を指定した具体的指定を与えて始めて弁護人らとの接見交通を一時的に制限することができるのにすぎないのであるから、右のような接見禁止の実質をもつ一般的指定をすることは、捜査官が裁判官にすら認められていない弁護人らと被疑者との接見禁止処分を行なうもの(刑訴法八一条参照)であつて、捜査官に許容される指定裁量権の範囲を明らかに逸脱し、違法である。まして、被疑者は逮捕の瞬間から直ちに弁護人の実質的弁護を受けられる権利を有する(憲法三四条)のであるから、被疑者の弁護人となろうとする者は直ちに被疑者と接見する権利を持つので、尚更である。

(四)  そこで、本件申立は理由があるので、刑訴法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

(池田憲義)

別紙<略>

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